Human-in-the-Loopは、AI Agentの実行ループへ人間の判断点を組み込む設計です。
すべての出力を人が見張る、という話ではありません。どの操作の前で止めるか、そのとき人へ何を見せるか、誰が決め、その記録をどう残すか。この設計を持たないまま「人が確認するから大丈夫」と言っても、確認は成立しません。
このGuideは、2026年7月14日時点の一次情報を基準にしています。ProtocolやSDKの中断・承認APIは整備が進んでいる途中のため、実装時には利用する基盤の最新仕様を確認してください。
人が入る点は一種類ではない
| 判断点 | タイミング | 主な対象 |
|---|---|---|
| 承認 (Approval) | 実行の直前 | 取り消せない操作、送信、支払い |
| 確認 (Elicitation) | 実行の途中 | 曖昧さの解消、不足情報の入力 |
| Review | 実行の後 | 成果物の抜き取り確認、評価への還流 |
| 移譲 (Handoff) | 継続不能の時点 | 例外、権限不足、想定外の状態 |
全部をまとめて「人間のチェック」と呼ぶと、設計が曖昧になります。承認は権限の問題、確認は情報の問題、Reviewは品質の問題、移譲は例外処理の問題。それぞれ置く場所も記録も違います。
実装の部品は揃い始めている
MCPのElicitation仕様は、Serverが利用者へ追加情報を求める流れを定義しています。構造化した入力を求めるFormモードと、外部URLへ誘導するURLモードがあり、応答はAccept・Decline・Cancelの三つに分かれます。Credentialのような機密情報はFormモードで求めてはならず、URLモードを使います。この区別は仕様上の要件です。
MCPのTools仕様も、Toolはmodel-controlledであるとしつつ、人間が呼び出しを拒否できる仕組みを持つことを推奨しています。
OpenAI Agents SDKのHuman-in-the-Loopガイドは、Tool実行前の承認で実行を中断し、状態をSerializeして保存し、承認後に再開する流れを示しています。承認待ちが数時間や数日になっても成立するよう、中断と再開を前提にした状態設計が実装の中心になります。
承認は情報が揃って初めて機能する
承認画面に「Agentがメールを送ろうとしています。許可しますか」とだけ出ても、判断できません。承認者に渡すべき情報があります。
- 何を実行するか (Tool名と引数の要約)
- 誰のための実行か (対象の利用者・データ)
- 何を根拠に選んだか (参照した文書・状態)
- 実行するとどうなるか (影響範囲、取り消せるか)
そして承認の記録は、承認者・対象操作・入力・期限を結び付けて残します。IdentityとAuthorizationで扱ったApproval tokenの形です。誰かがいつか許可した、では監査に使えません。
承認の一番の敵は形骸化
承認点を増やすほど安全になる、とは言えません。低リスクな操作にまで承認を付けると、承認者は内容を読まずに通し始めます。全部に鍵を掛けた結果、全部素通りになる。これが一番避けたい状態です。
- 承認対象は、取り消せない操作と影響の大きい操作へ絞る
- 読み取りや下書き生成は承認なしで流す
- 承認までの時間と差し戻し率を記録する
差し戻し率がゼロに近づいたら、承認が機能しているのではなく、読まれていない可能性を疑います。
よくある誤解
人が見るから安全になる
見せる情報が不足していれば、承認は儀式になります。安全性は承認の有無ではなく、承認者が判断できる情報設計から来ます。
すべての操作に承認を付ければよい
承認疲れで全件素通りになります。Toolの分類に合わせ、リスクの高い操作へ絞ります。
承認は同期処理で実装できる
人間の応答は数時間かかることがあります。実行を安全に中断し、状態を保存し、再開できる設計が本体です。Loop Engineeringの停止・移譲条件とも接続します。
Human-in-the-Loopは過渡期の仕組みで、いずれ外せる
外すかどうかは評価の結果で決める判断です。また、承認点は人間が失敗例を観測する点でもあり、評価セットの供給源として残す価値があります。
EastBraver Labsの判断基準
EastBraver Labsでは、取り消せない操作 (送信・削除・支払い・公開) を承認対象の初期値にします。外すのではなく、外せる根拠を評価で作る側に置きます。
承認そのものも観測対象です。承認までの時間、差し戻し率、差し戻し理由を記録し、形骸化の兆候を監視します。差し戻された実行は、そのまま評価セットへ戻します。
人を入れる目的は、Agentを遅くすることではありません。失敗が業務へ届く前に、人間が観測して止められる点を設計することです。どこで止まるかを説明できないAgentは、まだ本番前だと考えています。